分析手法 完全ガイド

反復測定分散分析とは?同一対象の比較をやさしく解説

読了の目安約10分 難易度同じ対象を繰り返し測ったデータを分析したい方向け 最終更新2026.07.02

みなさん、こんにちは。スマート・アナリティクスの畠です。 「介入の前・直後・1か月後で症状の得点がどう変わったかを調べたい」「同じ参加者に複数の条件をやってもらって成績を比べたい」——研究の現場では、同じ対象から繰り返しデータを取って、その変化を見たい場面がよくあります。そんなときに使うのが、今回ご紹介する反復測定分散分析(repeated measures ANOVA)です。反復測定分散分析とは、同じ対象を3つ以上の時点(あるいは条件)で繰り返し測定したデータを使って、平均に変化があるかを調べる手法です。ふつうの(対応のない)分散分析と違うのは、各時点のデータが別々の人ではなく同じ人から得られている点で、個人差を取り除けるぶん変化を鋭く検出できる利点があります。一方で、球面性(sphericity)という独自の前提が加わり、これが崩れたときの補正が大切になります。このページでは、対応のあるデータの意味、ふつうの分散分析との違い、球面性とMauchlyの検定、崩れたときの補正、そして研究報告での書き方までを、順番にやさしく解説していきます。

畠 慎一郎
畠 慎一郎 スマート・アナリティクス株式会社 代表取締役 統計解析ソフトの提供と分析のサポートを通じて、研究や学習でデータ分析につまずく場面をたくさん見てきました。このガイドでも、わかりにくいところをやさしく解説していきます。
このページの要点
  • 反復測定分散分析とは、同じ対象を3水準以上(多くは時点)で繰り返し測ったデータで、平均に差があるかを調べる手法。対応のあるt検定の「3時点以上版」にあたる
  • 個人差を誤差から分離できるため、対応のない計画より検出力が高くなりやすいのが最大の利点
  • 固有の前提が球面性(すべての水準ペアの差分の分散が等しい)。崩れるとF比が大きく出やすく、第一種の過誤が膨らむ
  • 球面性はMauchlyの球面性検定で確認。有意ならGreenhouse-Geisser・Huynh-Feldtで自由度を補正してF検定を保守的にする
  • 全体が有意でも「どの時点間に差があるか」までは分からない。多重性を補正した事後比較で具体的な差を調べる
  • 脱落(欠測)に弱い点に注意。欠測が多いときは線型混合モデルなど欠測に強い枠組みが選択肢になる

反復測定分散分析とは何か

反復測定分散分析は、対応のある(within-subjects)3水準以上のデータで、水準間(多くは時点間)に平均差があるかを調べる手法です。

  • 対応のあるt検定が「2時点(前後)」の比較だとすれば、反復測定分散分析はその3時点以上版にあたります。
  • 同じ対象を繰り返し測るため、対象ごとの全体的な高低(個人差)を誤差から分離できます。これが検出力の利点につながります。
ここがポイント
反復測定分散分析の強みは「個人差を取り除けること」です。同じ人の中での変化だけに注目できるため、人によって元々の水準がばらついていても、変化そのものを鋭く検出できます。

「対応のあるデータ」とは

対応のあるデータ(paired / within-subjects data)とは、各観測値が「どの対象に属するか」でひも付いているデータです。たとえば、ある参加者の「前・直後・1か月後」の3つの値はすべて同じ人のものであり、互いに独立ではありません。

この依存関係を無視して対応のない分散分析を当てはめると、誤差の見積もりを誤り、検定が不正確になります。だからこそ、対応構造を明示的に扱う反復測定分散分析が必要になります。

ふつうの分散分析と何が違うのか

同じ「分散分析」でも、データの構成が別人か同一対象かで前提も検出力も変わります。一元配置分散分析(対応なし)との違いを整理しておきましょう。

比較項目一元配置分散分析(対応なし)反復測定分散分析(対応あり)
データの構成各群が別々の対象同じ対象を繰り返し測定
個人差の扱い誤差に含まれる誤差から分離できる
主な前提正規性・等分散性・独立性正規性・球面性
検出力相対的に低くなりやすい個人差を除けるぶん高くなりやすい
対応のないデータ 各群が別々の人 対応のあるデータ 同じ人を繰り返し測る 9人=9通りの個人差 群1 群2 群3 直後 1か月後 A B C 3人を3回=個人差を分離できる
図1:対応のないデータ(左)は各群が別人で、個人差は誤差に混ざる。対応のあるデータ(右)は同じ人を繰り返し測るため、点線でつながった「その人の中での変化」に注目でき、個人差を誤差から分離できる。
ここがポイント
対応のあるデータに対応のない分散分析を使うのは誤りです。逆に、本来は別人のデータを反復測定として扱うのも誤りです。データが同一対象から繰り返し得られたものかどうかが、手法選択の分かれ目です。

球面性の仮定とMauchlyの検定(最重要ポイント)

反復測定分散分析に固有の前提が球面性(sphericity)です。これは、すべての水準ペアの差分の分散が等しいという条件で、等分散性の反復測定版にあたる仮定です。

球面性が崩れると、差分の分散が一様でなくなり、F比が大きく出やすくなって(第一種の過誤が膨らんで)しまいます。

球面性が成り立っているかは、Mauchlyの球面性検定(Mauchly's W)で確認します。SPSSでは反復測定の出力に自動的に表示されます。

  • Mauchlyの検定が有意(p < .05)→ 球面性が崩れている可能性が高いと判断し、補正を適用します。
  • Mauchlyの検定が有意でない → 球面性を仮定したF検定をそのまま読みます。
球面性が成り立つ 差分の分散がそろっている 補正なしのF検定でOK 球面性が崩れる 差分の分散がばらつく → F比が膨らむ 自由度を縮める補正でp値を保守的に
図2:球面性が成り立つとき(左)は差分の分散がそろい、補正なしのF検定をそのまま読める。崩れるとき(右)は差分の分散がばらつき、F比が大きく出やすい。そこで自由度を縮める補正をかけ、p値を保守的に評価する。

球面性が崩れたときの補正

球面性が満たされないときは、自由度を補正してF検定を保守的にするのが標準的な対応です。補正の度合いはε(イプシロン)という指標で表され、代表的な補正が次の2つです。

補正法性質
Greenhouse-Geisserやや保守的。球面性からの逸脱が大きいときに適する
Huynh-Feldtより緩やか(検出力を保ちやすい)。逸脱が小さいときに適する

一般的な経験則として、εの推定値が0.75より小さいときはGreenhouse-Geisser、0.75以上のときはHuynh-Feldtを選ぶ、という使い分けが知られています。SPSSの出力には両方のε補正後の結果が並ぶので、どちらを採用したかを報告します。

ここがポイント
補正は「自由度を小さくしてp値を保守的にする」処理です。Mauchlyの検定が有意なのに補正なしのF検定を読むのは、第一種の過誤を見逃すことにつながります。
分散分析の基礎から固めたい方へ
反復測定分散分析は一元配置分散分析の「対応あり版」です。土台となる分散分析の考え方は、各検定ガイドでやさしく解説しています。
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検定が有意だったあとの多重比較

反復測定分散分析が有意でも、「どの時点とどの時点に差があるか」までは分かりません。そこで、対応のある多重比較(ペアごとの比較に補正を加えたもの。ボンフェローニ補正など)で、具体的にどの水準間に差があるかを調べます。

ここがポイント
時点ペアの比較を補正なしで何度も行うと、多重性で第一種の過誤が膨らみます。事後比較には必ず多重性への補正を入れましょう。

前提・注意点

反復測定分散分析を正しく使うために、前提と注意点を押さえておきましょう。

  • 正規性:各水準(時点)の母集団分布が正規分布に近いこと。
  • 球面性:上記のとおり、崩れていれば補正する。
  • 脱落(欠測):途中で測れなくなった対象が出ると、反復測定分散分析(リストワイズ除外)では該当者が丸ごと分析から外れ、検出力が落ちます。欠測が無視できないときは、混合効果モデル(線型混合モデル)などの欠測に強い枠組みが選択肢になります。

SPSSでの実行(概要)

SPSSでは「分析 → 一般線型モデル → 反復測定」で、被験者内因子(水準数)を定義し、各時点の変数を割り当てて実行します。出力にはMauchlyの球面性検定と、球面性仮定/Greenhouse-Geisser/Huynh-Feldt の各F検定が並びます。詳しい操作は「SPSSの使い方」シリーズに譲ります。

反復測定分散分析と関連の深い分析手法・SPSSでの具体的な実装手順を以下にまとめます。研究計画や論文執筆の参考にあわせてご活用ください。

つまずきやすいポイントと注意点

反復測定分散分析でつまずきやすいポイントを、ここで整理しておきます。

1. 対応のあるデータに対応のない分散分析を使ってしまう。同じ対象から繰り返し得たデータは独立ではありません。対応構造を無視すると誤差の見積もりを誤り、検定が不正確になります。データが同一対象から得られたかどうかをまず確認しましょう。

2. 球面性の確認を飛ばす。球面性は反復測定分散分析に固有の前提です。Mauchlyの検定の結果を見ずに補正なしのF検定をそのまま読むと、球面性が崩れているときに第一種の過誤を見逃します。

3. 補正の選択を報告しない。球面性が崩れたときはGreenhouse-GeisserかHuynh-Feldtで自由度を補正します。SPSSは両方を出力するので、どちらを採用したか(およびその根拠)を明記します。

4. 有意後の事後比較に多重性補正を入れない。全体が有意でも、どの時点間に差があるかは別問題です。ペアごとの比較を補正なしで繰り返すと第一種の過誤が膨らむため、ボンフェローニ補正などを必ず入れます。

5. 欠測(脱落)の影響を見落とす。反復測定分散分析は欠測のある対象を丸ごと除外するため、脱落が多いと検出力が落ち、結果が偏ることもあります。欠測が無視できないときは線型混合モデルなど欠測に強い手法を検討します。

よくある質問

Qふつうの分散分析と何が違うのですか?
最大の違いは、同じ対象を繰り返し測った「対応のあるデータ」を扱う点です。個人差を誤差から分離でき、球面性という固有の前提が加わります。
Q球面性とは何ですか?
すべての水準ペアの差分の分散が等しい、という前提です。崩れるとF比が大きく出やすくなり、第一種の過誤が膨らみます。Mauchlyの検定で確認します。
Q球面性が崩れたらどうしますか?
自由度を補正します。εが0.75未満ならGreenhouse-Geisser、0.75以上ならHuynh-Feldtを使うのが一般的な目安です。SPSSは両方を出力します。
Q対応のあるt検定との違いは?
対応のあるt検定は2時点の比較です。3時点以上を一度に扱い、多重性を抑えながら全体差を検定するのが反復測定分散分析です。
Q脱落(測れなかった対象)があるときはどうしますか?
反復測定分散分析は欠測のある対象を丸ごと除外するため検出力が落ちます。欠測が多いときは線型混合モデルなど欠測に強い手法を検討します。
Q何時点まで使えますか?
原理的には水準数に上限はありませんが、時点が増えるほど球面性が崩れやすく、欠測も生じやすくなります。計画段階で測定時点を必要十分に絞ることが大切です。
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