知っておきたい統計学超入門 ~統計の歴史的な背景~

第1回:統計(学)とは何か? ~歴史的な背景から探る~

みなさんこんにちは。スマート・アナリティクスの代表の畠です。

当コラムでは、SPSS Statisticsなどの統計解析ソフトウェアを扱うために最低限必要な統計の知識について一緒に学んでいきましょう。

さて、なぜ統計解析ソフトを利用する際に統計学の知識が必要なのか?これは良い質問ですね。

ソフトウェアは非常に優秀で多くの計算処理を実行してくれます。一方、データの中身までは統計ソフトは理解してくれません。つまり間違ったデータを投入しても、統計ソフトは計算してくれるんです。そのため実際に正しい分析を行えているのかは、人間が判断する必要があるのです。

そのため、計算の詳細を理解しなくとも、分析の概要を理解し、正しいデータを計算させるくらいの知識が必要となります。

インプットであるデータと分析結果の間にある計算を統計処理を行ってくれるのですが、正しいデータかどうか、結果をどう解釈するのかは人間に任せられています。そのため、その部分を理解する必要があるのです。その中身を理解することでさらにデータ分析と統計解析を自分のものにすることができるようになります。 

それではその統計とはどのようなものなのでしょうか。

「統計」というと難しいイメージがあるかもしれません。しかし、実は法則性があるんです。そのパターンを理解すればそれほど難しいことではありません。

統計の歴史

 当コラムを通して、統計の基本について学んでいきましょう。なお、統計の入門書や専門書は多く出版されています。ここでは、統計のエッセンスをご紹介していきます。統計とは、文字を分解してみれば、《統(すべて)》を《計(はかる)》手法のことです。英語ではStatisticsと表記しますが、語源は国家を表すStateです。

 なお、欧米では統計学と統計の区別はしていませんが、例えば、雇用統計をはじめとする各種の集計結果のように日本語では統計というと国家統計などを表すことが多いようです。

 なお、統計の起源は、国や社会における人口や経済に関する数的調査にあったといわれています。「国家があるところに統計あり」と統計学者のモーリス・ブロックが語ったように、多くの人や事象が生じるような状態では、それらを正しく把握し、判断するための道具として統計は発展をしてきました。例えばピラミッド建築においても統計が使われていました。よく考えてみればそうですよね。あのような建築物を建てるためには何万人という人と材料が必要です。それらを計画的に利用するためにはどうしても量的な処理が必要になりますよね?ちなみにピラミッド建設時代というと、実に約5000年前から存在するということです。

 また、古代ローマでは、市民の労働力や税収の調査が行われていました。古代ローマの徴税官であるセンソールが、増加する市民の労働力と税収計算を行っていました。つまり統計処理を当時から行っていたということです。そのセンソールは現在ではセンサスという言葉として未だに残っています。

 実は、前述のような国家の状態を調べるための統計を含め、統計学はいくつかの系譜があり、最終的に19世紀にアドルフ・ケトラーが学問として体系化していきました。一つには、先に紹介していたような国家の状態を表すための統計の系譜や大量の事象を捉えるための統計というものです。時は17世紀半ば、イギリス、ロンドンではペストが大流行していました。そのような中で英国人のジョン・グランド(1620-74)は、ロンドン市内の教会の資料を元に死亡に関する統計表を分析、その中かからあるパターンを発見しました。このように限られたサンプルデータから全体を推測することが可能になったのがこの時代です。副産物として当時200万人と考えられていたロンドンの人口が実は38万4千人と推定することに成功したとも言われています。

 もう一つの重要な系譜は、現代統計の重要な要素である確率的事象を捉えるための統計です。実はさいころ賭博やギャンブルから発生してきました。当時、学者が職業として成立し始めた時期で、貴族の元に頭の良い学者たちが仕えていたのです。パトロンである貴族たちは暇を持て余してさいころ賭博やギャンブルに興じていたわけですが、当然勝ちたいわけです。そこでお抱え学者たち(フェルマーやパスカルたち)に依頼してどうしたら勝てるのかを研究させていたそうです。この頃から確率論の基礎が生まれました。期待値や推定、検定、標本理論などがここから派生していきました。かのガリレオ・ガリレイもトスカーナ公からの依頼で「サイコロゲームに関する考察」という論文もだしていたそうです。

 さて、これらの系譜をまとめたのが、現代統計学の祖といわれるアドルフ・ケトラーです。人口調査が起源といわれた統計学も社会学や国勢統計学へ発展を遂げていきました。正しく信頼できるデータを集めて、そこから何らかの問題を明らかにし、新しい知見を得るための学問、それが統計学といえます。

 このように形而上学である数学を扱う統計ですが、実際には実態を把握するための実学として発展を遂げてきたという歴史的な背景があります。つまり、統計学で使われる数学や理論はあくまでも実際に使うために開発されてきたということで実は身近な学問といえるのです。さて、次回はこの歴史的背景をもった統計学とはどのような学問なのかを学んでいきましょう。