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ギリシャ文字の読み方 ― μ・σ・αはなぜ統計に出てくる?

統計の本を開くと、μ(ミュー)やσ(シグマ)、α(アルファ)といった見慣れない文字が並んでいて、思わず「うっ」となりますよね。でも、心配いりません。ギリシャ文字は暗号でも難しい数学でもなく、ただの「約束ごとの記号」です。読み方と役割さえ知れば、ページの景色がガラッと変わります。この記事では、統計でいちばん出てくる10文字を、一緒に読めるようにしていきましょう。

執筆:畠 慎一郎(スマート・アナリティクス株式会社)

なぜ統計はギリシャ文字を使うの?

「どうして、わざわざ読めない文字を使うんですか?」——これは講座でいちばん多い質問のひとつです。答えはとてもシンプルで、記号が足りなかったからなんです。数学や科学は昔から、量を表すのに英字(a、b、c…)を使ってきました。ところが統計では、データそのもの(x)、個数(n)、確率(p)と、英字の出番がすでにいっぱい。そこで「特別な意味を持つ値」には、見た目でハッキリ区別できるギリシャ文字を借りてきた——というわけです。

つまりギリシャ文字は、むずかしさの記号ではなく、区別のための記号なんですね。ここが分かると、気持ちがずいぶん軽くなります。

いちばん大事な約束:母集団はギリシャ文字、標本は英字

ギリシャ文字と英字の使い分けには、統計ならではの大事なルールがあります。それが「母集団の値はギリシャ文字、標本の値は英字」という約束です。

ことばメモ 母集団と標本:母集団は「本当に知りたい全体」、標本はそこから取り出した「手元の一部」です。全部を調べきれないから、一部から全体を推し量る——これが統計の基本の姿勢です。

たとえば「日本の高校生全員の平均身長」を知りたいとします。でも、全員を測るのは大変ですよね。そこで一部の人だけ測って、そこから全体を推測します。このとき、本当に知りたい全体の平均をμ(ミュー)、手元で計算した平均をx̄(エックスバー)と書き分けます。

母平均=μ、標本平均=x̄
同じ「平均」でも、全体を指すときはμ(ミュー)、手元のデータを指すときはx̄(エックスバー)と書き分けます。
母集団(知りたい全体)μ(ミュー)σ(シグマ)= ギリシャ文字で表す標本(手元のデータ)x̄(エックスバー)s(エス)= 英字で表す一部を取り出す
図1:母集団の値はギリシャ文字、標本の値は英字。これが統計の大きな約束ごとです。
ことばメモ パラメータ(母数):母集団の平均μや母集団の標準偏差σのように、母集団そのものが持つ値を「パラメータ(母数)」と呼びます。ギリシャ文字は、このパラメータの目印でもあるんですね。

統計でよく出るギリシャ文字 早わかり表

それでは、統計でよく出会うギリシャ文字を一気に見てしまいましょう。最初から全部覚える必要はありません。「へえ、こう読むんだ」と眺めるだけで十分です。

記号読み方統計での主な役割
μミュー母平均(母集団全体の平均)
σシグマ(小文字)母標準偏差(データのばらつきの大きさ)
σ²シグマ二乗母分散(母標準偏差を二乗した値)
Σシグマ(大文字)総和(すべてを足し合わせる合図)
αアルファ有意水準(検定で「めったにない」と判断する基準の確率)
βベータ第二種の誤り、回帰分析の偏回帰係数
ρロー母相関係数(2つの量の関係の強さ)
χ²カイ二乗カイ二乗(適合度や独立性を調べる検定)
λラムダ平均して起こる回数など(ポアソン分布ほか)
εイプシロン誤差(モデルで説明しきれないズレ)

まず太字で覚えておきたいのは、上の4つ(μ・σ・σ²・Σ)です。この4つが読めるだけで、入門書のかなりの部分がスラスラ読めるようになりますよ。α・β・ρ・χ²・λ・εは、いまは「読める」だけで大きな前進。中身は必要になったときに学べば大丈夫です。

「シグマ」は3つの顔を持っている

表の中でとくに紛らわしいのが「シグマ」です。じつはシグマには3つの顔があります。ここだけは、ゆっくり整理しておきましょう。

同じ「シグマ」でも、姿がちがえば意味もちがいますσ小文字シグマ母標準偏差= ばらつきの大きさσ²シグマの二乗母分散= 標準偏差を二乗Σ大文字シグマ総和(合計する)= ぜんぶ足す記号
図2:小文字σ・σ²・大文字Σは別の意味。大文字と小文字で役割が変わるのが、ギリシャ文字の面白いところです。

小文字のσ(シグマ)は母標準偏差、つまりデータのばらつきの大きさ。σ²(シグマの二乗)は、それを二乗した母分散です。二乗そのもののおさらいは別記事にゆずりますが、ここでは「分散=標準偏差を二乗したもの」とだけ押さえておけばOKです。

母分散=σ²=σ×σ
母分散は、母標準偏差σを二乗した値。だから記号もσ²と書きます。

そして大文字のΣ(シグマ)は、まったく別物。「ぜんぶ足す」という総和の合図です。下に「i=1」、上に「n」が付いていたら、「1番目からn番目までを順に足していく」という意味になります。

nΣi=1xᵢx₁+x₂+…+xₙ
「i=1からnまで、xᵢをぜんぶ足す」という意味。大文字のΣ(シグマ)は合計の合図です。
ことばメモ 大文字と小文字:ギリシャ文字は、大文字と小文字で意味が変わることがあります。小文字σは母標準偏差、大文字Σは総和。セットで覚えておくと混乱しません。

大文字Σのくわしい使い方はシグマ(Σ)の記事で、σとσ²の実際の計算は標準偏差・分散の完全ガイドでていねいに扱っています。気になった方はのぞいてみてください。

見た目が英字に似ている文字にご用心

読むときにもうひとつ気をつけたいのが、英字とそっくりな文字たちです。たとえばρ(ロー)は英字のpではありませんし、ε(イプシロン)はeとは別物。μ(ミュー)も、英字のuと混同しがちです。

見た目は似ているけれど、じつは別の文字ですギリシャ文字似ている英字ρ(ロー)p(英字のピー)ε(イプシロン)e(英字のイー)μ(ミュー)u(英字のユー)
図3:見分けのコツは「少しだけ形がちがう」と意識すること。慣れれば一瞬で見分けられるようになります。

テストの点数で一度だけ手を動かそう

言葉だけだとピンと来ないので、身近な例で一度だけ手を動かしてみましょう。5人のテストの点数が 60、70、80、90、100 だったとします。

まずは大文字Σの出番です。「ぜんぶ足す」と、60+70+80+90+100=400。つづいて平均を出すと、400÷5=80点ですね。

ここで大事なのが呼び名です。もしこの5人が「クラス全員(=母集団)」なら、この80点はμ(母平均)。いっぽう、大きな学年から選んだ「一部(=標本)」なら、同じ80点でもx̄(標本平均)と呼びます。数字はまったく同じでも、立場によって文字が変わる——これがギリシャ文字と英字の使い分けの正体です。平均のくわしい話も別記事で扱っていますので、そちらもどうぞ。

まとめ

  • ギリシャ文字は「むずかしさ」ではなく「区別」の記号。読み方さえ分かれば怖くありません。
  • 母集団の値はギリシャ文字(μ・σ)、標本の値は英字(x̄・s)で書き分けるのが大きな約束。
  • まず覚えるのはμ・σ・σ²・Σの4つ。あとは表で確認すれば十分です。
  • 小文字σ(母標準偏差)と大文字Σ(総和)は別物。見た目が似ていても油断しないこと。
  • α・β・ρ・χ²・λ・εは「読める」だけで大きな前進。中身は必要になったら学べばOKです。

よくある質問(FAQ)

ギリシャ文字は全部覚えないといけませんか?
いいえ。まずはμ・σ・Σ・αの4つで十分です。あとは出てきたときに表で確認すれば大丈夫。読み方さえ分かれば、意味は文脈で追えるようになります。
なぜ英語のアルファベットではダメなのですか?
英字はx(データ)やn(個数)などで、すでに使い道が埋まっているためです。母集団の特別な値には、区別しやすいギリシャ文字を割り当てる——という世界共通の慣習になっています。
小文字のσと大文字のΣは同じ意味ですか?
違います。小文字σは母標準偏差(ばらつきの大きさ)、大文字Σは総和(足し算の合図)です。見た目は似ていますが、役割はまったく別物です。
μとx̄はどう違うのですか?
どちらも平均ですが、μは母集団全体の平均、x̄は手元の標本の平均です。全体の値はギリシャ文字、標本の値は英字、と覚えてください。
χ²やλが出てくると急に難しく感じます。
名前(読み方)だけ先に押さえれば十分です。χ²は「カイ二乗」、λは「ラムダ」。中身は必要になったときに学べばよく、いまは「読める」だけで大きな前進です。
次の一歩におすすめ

統計の学習やデータ分析でお困りのときは、スマート・アナリティクスのサポート担当までお気軽にご相談ください。

執筆:畠 慎一郎
スマート・アナリティクス株式会社 代表。SPSS、日本IBM、セールスフォースを経て現職。統計解析ソフトの現場に20年あまり関わり、総務省統計局の研修講師も務める。著書3冊。「むずかしい統計を、はじめての人にもやさしく」をモットーに執筆しています。